税金は、本来何を差し置いても納めなければなりません。
税金の時効は、税金の申告書を提出した場合は申告期限の翌日から3年、申告書を提出していない場合は申告期限の翌日から5年となっています。(他に脱税の場合は7年など)
したがって、この期間内に納税しないまま時効を過ぎると、納税義務はなくなります。
ただし、督促状が送られてきたり、差押がなされれば、その時点からまた3年、5年と時効がはじめからカウントされますので、その期間に資産がなく、収入が0でもない限り、税金からは逃れられないと考えられた方が良いでしょう。
税務署や地方公共団体などの税を徴収する側は、滞納した税金を、督促も差押もなく放置しておくことはありません。
税の納期限を一定期間過ぎた段階で、差押がなされることになります。
「 税金を滞納したらどうなる?納期限を過ぎてから差し押さえまでの流れ」
また仮に自己破産したとしても、税金は免責(債務がなくなること)されませんので、納税義務は自己破産後も残ります。
もし、税金の滞納により不動産の差押を受けた場合、差押を解除してもらわなければ、任意売却はできません。
差押不動産の売却ができず、かといって滞納税金を納めることができなかった場合、最後は公売となってしまいます。
「 税金の滞納で不動産を差し押さえられたら?競売と公売の違いとは」
では、まだ住宅ローンを支払い中の自宅が、税金滞納による差押となってしまったらどうなるのでしょうか。
またその場合、どのような解決方法があるのでしょうか。
今回は住宅ローン支払い中の不動産が税金滞納により差し押さえられた場合についてお話ししたいと思います。
住宅ローンの抵当権と税金滞納の差押登記
住宅ローンの支払い中は、自宅に抵当権が設定されています。また、税金滞納での差押は差押登記がなされます。
この抵当権や差押登記は、競売や公売となった場合にどちらが優先されることになるのでしょうか。
これは、「抵当権の設定登記日」と、差押登記の原因となった税金の「法定納期限」の期日が早いほうが優先となります。
例えば、住宅ローンの残債が2,000万円で、抵当権の設定登記日が2015年2月1日、滞納した税金が300万で、その法定納期限が2015年8月1日、税金滞納による差押登記の日付けが2016年2月1日であったとします。
その場合に、競売または公売となり1,500万円にて落札されたとすると、その落札代金は全て住宅ローンの債務(抵当権が優先)に廻されるため、滞納している税金300万円はそのまま残ります。(プラス住宅ローンの残500万円)
仮に、それぞれの日付けが、抵当権の設定登記日2015年2月1日、滞納税金の法定納期限が2014年11月1日、差押登記日が2015年4月1日であったら、税金滞納の差押が優先され、先に滞納税分として300万円が充てられ、残り1,200万円が住宅ローンに充てられるため、残り800万円が住宅ローンの残債として残ります。
このように、抵当権に優先して税金の滞納分が回収できるのであれば、税金滞納による不動産の差押も有効ですが、抵当権が優先であった場合は、滞納税金の回収が全く見込めない可能性が高い場合があります。
実は法律では、国税徴収法第48条で「超過差押及び無益な差押の禁止」が定められています。
(超過差押及び無益な差押の禁止)
第四十八条 国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押えることができない。
2 差し押えることができる財産の価額がその差押に係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先だつ他の国税、地方税その他の債権の金額の合計額をこえる見込がないときは、その財産は、差し押えることができない。
しかし、実際には明らかに回収が見込めない場合でも、税金滞納による不動産の差押登記はなされます。
これは、簡単に言うと不動産の評価額は鑑定人により異なり、その評価が出るのを待っていると差押のタイミングを逃してしまうため、優先する抵当権があって差し押さえても回収見込みがない場合でも、差し押さえることは違法ではないとの判例があるためです。
この判例を基に、国税庁による法令解釈通達でも「無益な差押にはならない」とされています。
このように、優先する抵当権設定登記があった場合でも、税金滞納による差押がなされるわけですが、これを解除するにはどのようにすれば良いのでしょうか。
無益な差押の解除
法律では、「無益な差押の禁止」と同時に「無益な差押の解除」についても規定してあります。
(差押えの解除の要件)
第七十九条 徴収職員は、次の各号のいずれかに該当するときは、差押えを解除しなければならない。
一 納付、充当、更正の取消その他の理由により差押えに係る国税の全額が消滅したとき。
二 差押財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び差押えに係る国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなつたとき。
2 徴収職員は、次の各号のいずれかに該当するときは、差押財産の全部又は一部について、その差押えを解除することができる。
一 差押えに係る国税の一部の納付、充当、更正の一部の取消、差押財産の値上りその他の理由により、その価額が差押えに係る国税及びこれに先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を著しく超過すると認められるに至つたとき。
二 滞納者が他に差し押さえることができる適当な財産を提供した場合において、その財産を差し押さえたとき。
三 差押財産について、三回公売に付しても入札又は競り売りに係る買受けの申込み(以下「入札等」という。)がなかつた場合において、その差押財産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に公売に付しても買受人がないと認められ、かつ、随意契約による売却の見込みがないと認められるとき。
この国税徴収法第79条の第一項第二号の「差押財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び差押えに係る国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなつたとき。」がそれにあたります。
ただし、一度差し押さえられた不動産を、この法律を根拠に差押を解除してもらうためには、不動産評価額の鑑定書など客観的な証拠を提出しなければなりません。
不動産評価額の鑑定書は、不動産鑑定士に依頼して作成してもらうため、時間もコストもかかってしまいます。また客観的な証拠を提出しても、スムーズに差押解除してもらえるとは限りません。
そこで、私ども「任意売却の窓口」では違うアプローチで、税金滞納による差押の解除を交渉します。
具体的には、提携の弁護士と連携し、滞納税金の一部納税と残金の支払計画による交渉、住宅ローンの債権者に滞納税金の一部負担をお願いする交渉(競売になれば住宅ローンの債権者にとってもより多い回収が見込めなくなるため)など、様々なノウハウを駆使して対応します。
税を徴収する国や地方公共団体にとっても、競売や公売となれば滞納税金の回収が見込めず、納税義務はそのまま残りますが、差し押さえできる財産がなくなれば、いつ回収できるか分からないといったことになります。
そのため、「納税する意思があること」「完納できる見込みがあること」を粘り強く伝えながら交渉していきます。
そこまでして任意売却にこだわった方が良い?
私どもは、お客様が借金を返済することが重要ではなく、いかにより良い再スタート、新しい生活を開始できるかが重要だと考えております。
競売や公売となってしまうと、より多くの残債が出てしまうため、自宅を手放した後もその返済の負担が重くのしかかるでしょう。
しかし、任意売却することにより、残債をより少なく、またその返済もあくまで新生活に支障がない範囲で認めてもらえるなど、また希望を持った生活ができると信じております。
さらに、任意売却後にはその残債に対する税金の控除など、これまで苦しめられていた税金が、今度は恩恵に代わる場合もあります。
「 任意売却で税金が減る?任意売却後の残債に対する税金控除について」
このように、競売や公売と、任意売却とでは、その後の生活が大きく変わるため、可能であればなんとしても任意売却で進めていきたいと考えます。
税金は差し押さえられる前であれば、任意売却も比較的スムーズに進めることができますが、一度差し押さえられてしまうとそれを解除することは容易ではありません。
もし税金の支払いが苦しい場合は、猶予や減免を受けられる可能性もあります。
「 住民税や健康保険料を支払えないときは?納税の猶予と減免について」
税金の滞納による差押を受ける前に、早めの行動をお勧めいたします。