不動産を購入するときに住宅ローンを組まれた方は、多くの方が住宅ローン減税による税金控除を受けていらっしゃると思います。
それでは、自宅を任意売却した後の住宅ローンの残債に対して、税金の控除はあるのでしょうか。
住宅ローン減税は、支払中の住宅ローンに対する優遇措置ですので、減税の適用期間中に自宅を売却した場合は、住宅ローン減税による税金控除もなくなります。
また、不動産を売却して譲渡益(売却価格-(取得費+譲渡費用)がプラス)が出た場合、譲渡所得として所得税と住民税がかかります。
これに対し、任意売却はオーバーローンつまり自宅を売却してもローンが残ってしまう場合に行う、不動産売却のための手続きです。
したがって、任意売却で不動産を売却した場合は、譲渡益ではなく譲渡損失となります。
不動産の譲渡損益は分離課税ですので、給与などほかの所得とは別に課税されます。
ただし、「特定の居住用財産の譲渡損失は他の所得と損益通算可能」とされています。
この特定の居住用財産とは、簡単に言うとマイホーム(自身の居住用住居)のことです。したがって、投資用の物件などの場合は上記の適用がなされません。
実は住宅ローンが残っている自宅を任意売却した後の住宅ローンの残債は、いくつかの条件を満たしている場合、所得税と住民税の控除を受けることができます。
これは税制の特例である「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除制度」によるものです。
そこで今回は、この「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除制度」について、解説したいと思います。
税金の話は専門用語も多く分かりにくいのですが、住宅ローンの返済が難しくなっている方、自宅が差し押さえられる可能性がある方にとって、任意売却を行うための検討材料になるかもしれません。
ぜひ最後まで読んでいただきたいと思います。
またこの特例制度は、本日(平成27年12月21日現在)の時点で、適用期間が平成27年12月31日までに売却して損失が出た場合となっています。
これは、平成10年に創設され、その後拡充・延長された、期限を設けた特例制度であるためです。
ですので、もし平成28年度の税制改正で期限が延長されなかった場合、この税金控除はなくなってしまう可能性があります。(最後に見通しを解説します)
※ 平成29年12月31日まで2年間延長されました
それを踏まえて、読んでいただけますと幸いです。
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除制度
この制度は、住宅ローンのある住宅を売却したときに、売却額が住宅ローンの残高を下回った場合に適用されます。
内容は、譲渡損失(売却額-住宅ローンの残高=住宅ローンの残債)の額を所得から控除できるというものです。
また、1年で控除できなかった譲渡損失額は翌年以降3年間繰り越して控除可能です。
この特例制度は、単に自宅を手放したときだけではなく、買い換えた場合にも条件を満たしていれば適用されます。
任意売却の場合と買い換えの場合では多少異なる部分がありますが、ここでは任意売却の場合に絞って解説します。
買い換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例についてはこちらを参照してください。
主な適用要件
- 売却した年の1月1日における所有期間が5年を超えるマイホーム及びその敷地等
- 売買契約日の前日において、そのマイホームに係る償還期間10年以上の住宅ローンの残高がある
- マイホームの売却価額が住宅ローンの残高を下回っている
- 以前に住んでいた物件の場合、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却したもの
- 特別な関係(親子や夫婦、同居する親族など)の人以外に売却したもの
- 売却した年またはその前年以前3年以内に買い換えの特例制度を受けていないこと
- 売却した年またはその前年以前3年以内に他の物件売却による特例制度を受けていないこと
- 繰り越し控除について、その年の合計所得が3,000万円を超えていないこと
※ この特例制度と住宅ローン減税制度は併用可能です。
適用要件は国税庁のホームページに詳細が記載されています。
住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき | 国税庁
控除される額
以下のいずれか低い方の金額が適用されます
- (1) 住宅ローンの残高-売却価格
- (2) 譲渡損失((取得費+譲渡費用)-売却価格)
例えば、(取得費+譲渡費用)5,000万円、住宅ローンの残高3,000万円、売却価格2,000万円とした場合、
- (1) 3,000万円-2,000万円=1,000万円
- (2) 5,000万円-2,000万円=3,000万円
となり、(1)の1,000万円が控除される額となります。
この額が課税所得を上回り、1年で控除できなかった分は、翌年以降繰り越し(3年以内)で所得控除されます。
適用に必要な手続き
確定申告が必要です(繰り越し控除の場合も毎年)。
確定申告書に添付する書類は以下の通りです。
- 譲渡損失金額の明細書
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書
租税特別措置法 第四十一条の五の二 | 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ - 売却物件が所有期間5年超であることを証明する書類(登記事項証明書、売買契約書の写しなど)
- 売却前日までの住宅ローンの残高証明書
- 売却した日から2か月を経過した後に交付を受けた除票住民票の写し又は住民票の写し
詳細は、国税局の各税務署の相談窓口が、電話相談を受け付けています。
福岡県の各税務署の一覧は以下のURLです。管轄地域と照らし合わせてお問い合わせください。
また、住民税については地方税ですので、各自治体の窓口となります。
福岡市の場合は財政局 税務部 課税企画課で問い合わせが可能です。
計算例
ここでは、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例の適用を受けた場合の例として、数値を単純化して計算してみます。
実際は扶養控除などで金額が大きく変わりますが、あくまで参考としてとらえていただけますと幸いです。
計算条件
- (1)住宅ローン残高:3,000万円
- (2)任意売却による売却額:2,000万円
- (3)年収:650万円
- (4)特例適用前の課税所得:400万円
特例の適用がない場合
所得税=特例適用前の課税所得×20%-427,500=372,500円
住民税=特例適用前の課税所得×10%=400,000円
所得税+住民税=772,500円
特例の適用がある場合
適用される譲渡損失額(所得控除額)=住宅ローン残高-売却額=1,000万円
【売却した年】
課税所得=特例適用前の課税所得-特例による控除=400万円-1,000万円=△600万円
所得税=課税所得×5%(195万円以下の税率)=0円
住民税=課税所得×10%=0円
所得税+住民税=0円
【売却した翌年】
特例による控除の繰り越し分=600万円
課税所得=特例適用前の課税所得-特例による繰越分=400万円-600万円=△200万円
所得税=課税所得×5%(195万円以下の税率)=0円
住民税=課税所得×10%=0円
所得税+住民税=0円
【売却した翌々年】
特例による控除の繰り越し分=200万円
課税所得=特例適用前の課税所得-特例による繰越分=400万円-200万円=200万円
所得税=課税所得×10%(195万円超~330万円以下の税率)-97,500円=102,500円
住民税=課税所得×10%=200,000円
所得税+住民税=302,500円
このように、適用がない場合と比較すると、所得税と住民税をあわせて、3年間で2,015,000円の税金が安くなる計算になります。
※合計所得が3,000万円を超えた年は繰越控除は適用されません
適用期限について
先述したとおり、現時点(平成27年12月21日現在)で特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例の適用期限は平成27年12月31日までとなっています。
この特例は、平成10年度に創設され、平成11年度拡充、平成13年度3年延長、平成16年度拡充、平成19年度3年延長、以降2年ずつ延長され現在に至ります。
税制は国会で決まるため、もし平成28年度の税制改正で延長されないとなった場合、この特例はなくなることになります。
実は、平成28年度の税制改正に向けた各府省庁からの要望事項で、国土交通省より2年延長の要望が提出されています。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除制度の延長(国土交通省) | 財務省
これまでの経緯から、延長される可能性は高いと考えられます。
しかし、決定するまでは確実とはいえませんし、延長となった場合でも内容が変わる可能性はあります。
決定されましたらこのブログでお知らせいたしますが、現時点ではあくまで平成27年12月31日までの適用となっていることをご了承ください。
※ 平成29年12月31日まで2年間延長されました
任意売却をご検討なさっている方は、売却後の残債の支払いや、新生活への対応などご不安な点も多いかと思います。
現時点では、特例が延長されるという条件がつきますが、延長されて特例が適用され条件を満たされる方は、このような優遇措置を受けられる可能性があることも心に留めておかれてください。