マンション、一戸建てにかかわらず、マイホームを購入するときには、ほとんどの方が住宅ローンを組んで購入されることだと思います。
住宅ローンは銀行をはじめとする金融機関がそれぞれ独自に提供しているものや、住宅金融支援機構のフラット35など、様々な種類があります。
どの住宅ローンを利用する場合でも、そのほとんどで保証会社による保証と抵当権の設定がなされます。
もし、住宅ローンが払えなくなった、住宅ローンを滞納してしまったとして、そのまま放置しておくとどうなるのでしょう。
住宅ローンを取り扱う金融機関により期間は違いますが、おおむね3か月~6ヶ月で競売の申立てが行われます。
競売申立てがなされると、裁判所より「担保不動産競売開始決定通知」が届きます。
その後も何の手立ても打たなかった場合、最後は物件を明け渡して立ち退かなくてはなりません。
立ち退きたくなくても、強制執行により強制的に追い出される事になります。
今回は、裁判所から「担保不動産競売開始決定」の通知が届いてから、物件を引き渡して立ち退きまでの流れについてお話しします。
債権者に競売を申し立てられてから立ち退きまでは以下の様な流れになります。
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- 債権者が裁判所へ不動産競売申立てを行う
- 物件を管轄している執行裁判所に申立てがなされます
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- 競売申立てを裁判所が認めれば、不動産競売の開始が決定される
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- 裁判所から法務局へ差押えの登記の嘱託がなされ、「差押」登記が行われる
- 物件の勝手な処分や売却ができなくなります
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- 債務者のもとに裁判所より「担保不動産競売開始決定通知」が送達される
- (1. 競売申立てから10日~2週間)
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- 競売のために執行官がきて現況調査が行われる
- 室内へ立ち入り調査が行われます。拒否はできません
- (4. 競売開始決定通知が届いてから1ヶ月以内)
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- いわゆる3点セットが作成され、「売却基準価額」が決定される
- 3点セットとは「物件明細書」「現況調査報告書」「評価書」です
- 競売物件まる裸!競売で公開される資料「3点セット」の内容とは
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- 債務者のもとに裁判所より「競売の期間入札の通知書」が送付される
- (5. 現況調査から2~3ヶ月)
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- 期間入札の公告
- 上記3点セットが誰でも閲覧可能になります
- (7. 競売の期間入札の通知書が送られてきてから約1ヶ月)
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- 期間入札開始
- (8. 期間入札の公告から約2週間~1ヶ月)
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- 開札・最高価買受申出人(落札者)決定
- (9. 入札開始から1週間~1ヶ月以内)
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- 売却許可決定
- 売却許可決定がなされると、最高価買受申出人から買受人に呼称が変わります
- (10. 開札から約1週間)
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- 代金が納付され所有権が買受人へ移転される
- (11. 納付期限は売却許可決定から約1ヶ月)
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- 所有権移転登記及び抵当権抹消等の登記が完了
- (12. 代金の納付から1~2週間)
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- 債権回収会社(サービサー)へ債権譲渡、残債の一括請求が債務者へ届く
- 住宅ローンの残債から落札額を差し引いた残りが一括請求されます
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- 立ち退き
- 立ち退かない場合、最終的には強制執行となります
- (12. 代金納付から1ヶ月~)
上記、競売の申立てから立ち退きまでの流れのなかで、債務者(競売にかけられる側)にとって、ポイントとなるのは以下の点です。
- 4. 債務者のもとに裁判所より「担保不動産競売開始決定通知」が送達される
- 5. 競売のために執行官がきて現況調査が行われる
- 7. 債務者のもとに裁判所より「競売の期間入札の通知書」が送付される
- 8. 期間入札の公告
- 10. 開札・最高価買受申出人(落札者)決定
- 14. 債権回収会社(サービサー)へ債権譲渡、残債の一括請求が債務者へ届く
- 15. 立ち退き
それでは、各ポイントについて解説したいと思います。
【債務者のもとに裁判所より「担保不動産競売開始決定通知」が送達される】
裁判所により、債務者(住宅ローンを滞納した人)の所有する不動産が競売にかけられることが決定しました。
この後、債務者が何もアクションを起こさない場合、立ち退き(もしくは強制執行)まで粛々と手続きが進められていきます。
競売を取り下げてもらうための期限は、開札の前日までとなります。
ただし取り下げてもらうためには、任意売却を成立させ、債権者に承諾して貰い、競売の取り下げ申請をしてもらわなければなりません。
ですので、期限ぎりぎりでやっぱり任意売却をと思い直されても(仮に買い主まで決定していたとしても)、物理的に間に合わない事があります。
そのため、任意売却に切り替える実質的なリミットは「7. 競売の期間入札の通知書」が届くまでくらいになります。
このブログでも何度か申し上げているとおり、不動産の任意売却は早く決断すればするほど、より有利な条件での売却が望めます。
「担保不動産競売開始決定通知」が届いてから、初めて任意売却の相談に見えられる方も、大変多いです。
少しでも有利に売却するためには、この時点で任意売却を決断なさるのがラストチャンスと考えて行動されることをお勧めします。
【競売のために執行官がきて現況調査が行われる】
競売を決定した裁判所から、物件の調査に執行官が訪れます。
執行官は、抵抗があった場合に警察の援助を求めることができるなど、強力な権限を持っています。
また、立ち会いがない場合でも鍵を開けて中に入ることができる、債務者または占有する第三者(賃貸にしている場合など)に質問をし、若しくは文書の提示を求めることができる、といったことが民事執行法により定められています。
そのため執行官による現況調査を拒否することは不可能です。抵抗した場合、公務執行妨害を問われる可能性もあります。
逆に、執行官の調査に対して協力した場合、現況調査が短時間で終わる場合もあります。
調査内容は、部屋の間取りや建物の不具合、賃貸の有無などとともに、室内の写真も撮られます。
建物の図面や、賃貸借契約書などがある場合には、予めそのコピーなどを用意しておかれた方が良いでしょう。
また同時に不動産鑑定士による不動産の評価も行われます。
この現況調査を元に資料が作成され、「売却基準価額」が決まります。
この時点でも、まだ任意売却は可能です。任意売却であれば、所有権が人に渡っても住み続けられる可能性があるかもしれません。
あきらめないで任意売却に強い不動産会社に相談してみましょう。
【債務者のもとに裁判所より「競売の期間入札の通知書」が送付される】
執行官が現況調査に訪れてから、早ければ2ヶ月ほどで裁判所より「競売の期間入札の通知書」が届きます。
この通知書には、入札期間や開札期日、売却基準価額などが記載されています。
ここまで来ると、より有利な条件での任意売却は相当難しいと言わざるを得ません。
ですが、まだ任意売却が不可能なわけではありません。
ここでの決断がラストチャンスです。一刻も早く行動しましょう。
【期間入札の公告】
裁判所が、いつから物件の入札を行うということを、公に告知します。
同時により多くの入札者を集めるため、現況調査により作成された「物件明細書」「現況調査報告書」「評価書」のいわゆる3点セットが誰でも閲覧可能になります。
競売物件の情報が公にされるということは、競売にかけられる物件の所有者(債務者)の情報が世の中に広く知られる事になります。
競売はどうしても避けたいと思われる大きな理由が、まさにこの「周りに知られてしまう」というところだと思います。
任意売却の場合、「競売にかけられる」ではなく「家を売る」ということになり、その家を売る事情などは周りに知られることはありません。
この競売と任意売却の違いは大きいのではないでしょうか。
【開札・最高価買受申出人(落札者)決定】
開札(落札)の前日までが競売取り下げの期限となります。
ただし入札者(買受申出人)がいた場合には、最高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意を得なければならない(民事執行法第76条)ため、実質的なリミットは「期間入札の開始の前日」と考えておかれた方がよいでしょう。
また、落札後も落札者の同意があって、代金納付前までは取り下げることは可能ですが、同意を得られる落札者はほぼいないため、こちらも不可能であると考えて間違いありません。
取り下げは、競売を申し立てた債権者が行わなければならないため、ぎりぎりの時点でやっぱり任意売却に切り替えたいと思われても任意売却は不可能です。
こうしてみると、「担保不動産競売開始決定通知」が届いてからここまで約半年ほどの時間がありますので、やはり「担保不動産競売開始決定通知」が届いた時点で「任意売却」の検討をされていれば、いろいろな可能性が残されていたといえます。
最近では、以前より競売手続きの期間が短くなっている傾向がありますので、「担保不動産競売開始決定通知」を待たずに是非「任意売却」を検討なさってください。
【債権回収会社(サービサー)へ債権譲渡、残債の一括請求が債務者へ届く】
落札者が決定し代金が納付されると、その時点で落札者が所有者となります。
落札者が支払った代金は債務の弁済に充てられ、その残債が債務者に一括請求されることになります。
家を売っても残債が残ってしまうのは任意売却でも同じですが(もちろん住宅ローンの残債より高く売れれば残りません)、任意売却の場合、残債を無理のない範囲で分割払いにしてもらうなどの交渉ができます。
競売の場合は残債を一括で支払えない場合、債務整理(自己破産など)を弁護士などに依頼することになります。
このような点でも、やはり「任意売却」が債務者の再スタートには有利だと言えると思います。
【立ち退き】
落札者に所有権が移転された時点で、元の所有者(債務者)は物件を立ち退かなければなりません。
以前は短期賃貸借契約を悪用して競売後も物件を占有するケースがありましたが、2003年に公布され2004年に施行された改正担保・執行法により占有を続けることは不可能となりました。
但し、抵当権が設定された後に賃貸借契約を交わした賃借人は退去まで6ヶ月の猶予が認められています。
よく退去料(引っ越し代)を期待して居座るケースを聞きますが、最近では買受人(落札者)が一切応じず強制執行に踏み切る場合も少なくないようです。
いずれにしても引っ越し代などは期待せず、買受人と退去の日程などについて話し合い、速やかに物件を明け渡した方がお互いのためだと考えます。
立ち退きに応じず強制執行となった場合、文字通り強制的に追い出されてしまうことになります。
また強制執行にかかった費用も請求されてしまいます。
マイホームを手に入れた時点では、誰もが住宅ローンが払えなくなってしまったときのことなど考えることはありません。
ですが、病気やリストラ、離婚など、実に様々な事情で住宅ローンが払えず、家を手放さなければならなくなってしまわれる方は少なくありません。
家を手放すことは恥ずかしいことではありません。いかに再スタートして健全な生活を早く取り戻すことこそが重要です。