任意売却は一般的に、任意売却専門あるいは任意売却が得意な不動産会社と専属媒介契約(もしくは専属専任媒介契約)を結び、その業者が仲介することで手続きが進められていきます。
「 専任媒介?一般媒介?不動産売却時の媒介契約による違いとは」
お客様からときどき「直接買い取ってもらう事はできないか」といったご質問をいただく事があります。
「任意売却の窓口」では原則として、直接の買取は行っておりません。
理由はいくつかございますが、一番大きい理由は債権者(住宅金融支援機構や銀行、保証会社など)の同意が得られないケースが多いということです。
任意売却の手続きを進めていく上で、物件の売却には必ず債権者の同意が必要ですし、不動産会社が買い取ることに債権者が同意しないのには理由があります。
また、買取専門を掲げている不動産会社があることはご存じかと思いますが、これらの買取専門としている会社の多くは、どんな物件でも必ず買い取るわけではなく(ある意味当然ですが)、仲介による不動産売買も行っています。
不動産買取を中心に事業を行っている不動産会社の場合、自社や関連会社でリフォームを行い、付加価値を付けた中古物件として売り出すため、利益を出すことができます。
このような自社でリフォームを行わない不動産会社では、買い取っても利益を出すことが難しく、単に仲介契約を結ぶきっかけのために買取専門と謳っている場合もあるようです。
そこで今回は、任意売却の場合に不動産会社が直接買い取ることが難しい理由と、不動産会社に買い取ってもらう場合のメリット・デメリットについてお話ししたいと思います。
任意売却と不動産会社の買取
任意売却に限らず不動産の売却をしたいとなったとき、多くの方が「できるだけ高く売りたい」とお考えになると思います。
このとき、不動産業者の仲介で販売した場合の売却額と、買取業者が買い取った場合の買取金額とでは、仲介で販売した額の方が高くなります。
これは不動産に限らず、経済の原則として、売り手と買い手の間に入る業者が少ないほど、売り手は高く売ることができ、買い手は安く買えるからです。
仲介の場合は、間に入った不動産会社が仲介手数料のみを頂くという形ですが、不動産会社が買い取る場合には、会社の利益分として仲介手数料以上の金額が上乗せされるため、その分売り手の売却額は低くなり、買い手の購入額は高くなってしまいます。
ただしこれは、買取業者が不当に安く買いたたくという意味ではありません。
不動産会社が直接買取った物件は、通常、リフォームによる付加価値を付けた中古物件として販売されます。
物件を買い取った後、リフォームから販売完了までの期間は、在庫を抱えているのと同じ状態です。
また、リフォーム後に売り出した時、見込み通りの販売額で買い手がつかなければ、販売額を下げて再度売り出したり、値引きに応じるなどで、予定していた利益が出せないこともあります。
当然リフォームそのものにも、かなりのコストがかかります。
こういったリスクを考慮すると、不動産会社は高く買い取りたくてもできないわけです。
不動産会社としては、仲介手数料と同じ額の利益しかでないのであれば、リスクが高い買取よりもリスクが少ない仲介の方が良いということになります。(仲介の場合も販売できなければ不動産会社は報酬が得られないというリスクはあります。)
自社でリフォームも行う会社であれば、リフォームを外注するよりも利益が出せるため、その分を買取金額に上乗せ、あるいは販売価格を下げるといったことも可能ですが、それを考慮しても高い金額での買取は難しいでしょう。
不動産会社の仲介で販売する場合は、仲介手数料が必要ですが、売り手も買い手も市場価格での取引が見込めます。
「 不動産売買手数料は高額?取引に必要な仲介手数料の詳細を解説!」
一般的に、不動産会社が直接買い取る場合、市場価格の60%~65%くらいの価格が相場といわれています。
任意売却では、物件の販売価格は、住宅金融支援機構や銀行などの債権者が同意した金額でなければ販売できません。
市場価格の6割~7割の金額では、競売と変わらない額となり、より多くの回収(高い金額での販売)を望む債権者の同意が得られない場合が多いのです。
また、住宅金融支援機構の住宅ローンの場合は、任意売却に関する手続きを進める上で、必ず仲介業者との媒介契約が求められます。
売り主の方が、自分自身で買い手を見つけてきたという形で、買取業者に買い取ってもらう事も可能ですが、その買取金額を住宅金融支援機構に認めてもらえなければ、業者は買い取ることができません。
住宅金融支援機構は債権額(住宅ローンの残債)が多いと、売却金額にもシビアに対応するケースがほとんどですので、不動産会社が直接買い取る場合の買取金額では、認めてもらえないと考えた方が良いかと思います。
他に、「買取保証」として、仲介契約で販売活動を行い、それで売れなかった場合は自社で買取しますという方法をとっている不動産会社などもありますが、これも一般の不動産売却には有効ですが、任意売却の場合はほとんど不可能です。
買取保証で不動産会社が買い取るとなった場合の買取額は、やはり市場価格より低くなりますので、こちらも債権者に認めてもらえません。
不動産会社買取のメリット・デメリット
不動産会社が直接買い取る場合、仲介で販売するよりも金額が安くなることはデメリットですが、金額以外に関しては、実は多くのメリットもあります。
任意売却の場合は、先述の通り不動産会社による買取を望まれても難しいのですが、一般的な不動産売買であれば、金額のデメリットを上回るメリットがある場合、買取業者への売却を検討されても良いのではないでしょうか。
不動産を買取業者へ売却する場合のデメリット
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- 仲介での販売より安くなる
- 一般的には市場価格(仲介での販売価格)の60%~65%といわれています
不動産を買取業者へ売却する場合のメリット
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- 短期間で売却が完了する
- 例えば急な転勤や、大至急資金が必要になったなど、とにかく早く売却が必要な場合に、確実に早く売却できる買取は有効です。現金買取であれば、入金がいつになるかといった心配もありません。
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- 査定の比較ができる
- 仲介の場合、査定額=販売額とはなりませんが、買取は査定額=買取額となるため、複数の業者に査定してもらう事で有利に売却することが可能です。
「 本当に家の売値が分かる?不動産一括査定のメリット・デメリットとは」
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- 内覧(室内見学)が必要ない
- 先に引っ越してから自宅を売り出す場合でしたら、内覧もそれほど問題ではないでしょうが、自宅に住んだまま売り出し開始した場合、購入希望者に対する内覧が行われます。このことが負担になるケースも多いようです。
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- 仲介手数料が不要
- 仲介の場合、仲介手数料(販売価格×3%+6万円+消費税)が必要ですが、不動産会社の直接買取であれば、仲介手数料は不要です。ただし、売買契約書の印紙代や登記費用などは必要となります。
「 印紙税について – 不動産売買時に必要な税金その1」
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- 瑕疵担保責任が免責される
- 不動産を売却した後で、建物などに重大な欠陥が見つかった場合には、売り主の責任が求められますが、不動産会社が買い取った場合にはこの責任が免責される契約となります。
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- 現状のまま販売できる
- 少しでも高く売るためにハウスクリーニングやホームステージング、リフォームなどを検討したり、施工する必要がありません。
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不動産売買は高額な取引となりますが、一般の方は経験がないため、適正な価格を見極めることは難しいことだと思います。
不動産会社による買取であれば、複数の業者に査定してもらう事で比較できます。
任意売却の場合、例えばリフォーム転売ではなく自社で使用するなどレアケースでの買取の可能性は、なくはありません。ですがその場合でも、不動産会社としては競売で物件を落札した方が低コストのため、積極的に任意売却を行わないことも考えられます。
また悪質な業者の場合、任意売却を考えているお客様に自社での買取の話で近づき、売買契約ではなく専属媒介契約(仲介契約)を結ぶといったこともあるようですのでご注意ください。
任意売却では、物件の販売価格は大事ですが、売り主の方が価格を決められる訳ではありません。
一番大事なのは、売却後の新たな生活です。
「任意売却の窓口」は、お客様のより良い再スタートを最大限サポートいたします。