前回は「競売の申し立てから立ち退きまでの流れ」についてお話しいたしました。
今回は競売の流れの中でも、落札されてから強制執行までを詳しく解説したいと思います。
競売で落札され、買受人から落札した代金が納付された時点で、所有権は落札者に移転します。
前所有者の方が、任意売却など競売を回避する手立てを打たなかった場合、ほとんどの方が落札後もその物件にとどまっておられます。
しかし所有権が移転し、新しいオーナーが決まった時点で不法占有ということになりますので、物件を引き渡さなくてはなりません。
通常は落札者(買受人)と話し合い、退去日を決めて立ち退く事になりますが、立ち退かなかった場合、最後は強制執行により強制的に追い出されます。
それでは、競売で落札から強制執行までの手続きを時系列で見てみましょう。
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- 1. 落札(開札)
- 最高値を入札した人が落札者(最高価買受申出人)に決定します。
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- 2. 売却許可決定(落札から数日~約1週間)
- 裁判所により落札者の審査が行われ、特に問題がない場合、売却許可決定がおります。この時点で「最高価買受申出人」は「買受人」に呼称が変わります。また、謄本交付申請を行えば「売却許可決定謄本」が裁判所より交付されます。
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- 3. 売却許可決定確定(売却許可決定から約10日前後)
- 売却許可決定期日から1週間以内に執行抗告がなければ売却許可決定確定となります。
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- 4. 代金納付期限通知書の送達(売却許可決定から数日後)
- 「残代金額」及び「残代金納付期限」が記載された通知書が買受人へ送られます。納付期限は通知が届いた日から約1ヶ月となっています。
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- 5. 代金の納付(代金納付期限通知書の送達から約1ヶ月以内)
- 代金納付期限通知書に基づき代金が納付されると、その時点で所有権が移転され、買受人が所有者となります。
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- 6. 所有権移転登記など(代金納付後、権利証の交付まで約2週間)
- 代金が納付されると、裁判所より法務局へ登記嘱託手続きが行われます。所有権移転登記の他に、差押登記の抹消・抵当権等の設定登記抹消も同時に行われます。登記嘱託に必要な書類を提出して約2週間ほどで権利証(登記嘱託書)が交付されます。
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- 7. 引渡命令の申立て(代金納付後6ヶ月以内、明渡猶予期間の適用がある場合は9ヶ月以内)
- 引渡命令は競売の買受人が利用できる制度で、一定の要件を満たしていれば、申立てから約1週間で裁判所より不動産引渡命令が発令され引渡命令正本が申立人と債務者(元の所有者)に送達されます。賃借人が居住している場合、6ヶ月の明渡猶予期間を適用される場合があります。
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- 8. 引渡命令の確定(引渡命令の発令から1週間)
- 引渡命令正本が届いてから1週間以内に執行抗告(不服申立て)がなければ、引渡命令が確定します
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- 9. 強制執行の申立て(引渡命令の確定後)
- 引渡命令が確定すると執行分付与の申し立てが行われ、引渡命令の末尾に執行文を添付して強制執行の申立てが行われます。
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- 10.強制執行(強制執行の申立てから約1ヶ月)
- 裁判所の執行官により強制執行が執り行われます。
このように、落札から最短で2ヶ月弱で強制執行が執り行われます。
実際には、有無を言わさず強制執行まで手続きする買受人の方は少ないですが、落札されて代金が支払われれば、最終的には必ず立ち退くことになります。ほとんどの落札者は、落札後にまず前の所有者(債務者)と主に退去日(引き渡し日)について交渉します。
債務者の方にとっては、引き渡しにあたり立ち退き料(引っ越し費用)はもらえないのか、また立ち退かずに居座ることは可能かといった点が知りたいポイントではないでしょうか。
結果から申しますと、立ち退き料はほとんど期待できず、また立ち退かずに居座ることはほぼ不可能です。
この点について詳しくお話ししたいと思います。
【立ち退き料(引っ越し費用)はもらえるのか?】
以前は占有者の権利が強かったため、立ち退き料として数百万もらったといった話もありました。
また立ち退きを巡り、練馬一家5人殺害事件 のような、悲惨な事件なども起こっています。
しかし現在では買受人の権利が保護され、また強制執行までの手続きが引渡命令などにより簡素化されたため、立ち退き料は一切支払わず、強制執行まで粛々と手続きを進める業者も出て来ました。
また買受人は、落札代金以外にも登録免許税などの諸費用や、競売代行業者に依頼していた場合にその手数料なども負担します。
さらに競売の入札者の増加により、落札相場自体が高騰しているなどの要因で、占有者への引っ越し費用などの支出を抑える傾向にあると言えます。
とはいえ、買受人にとっても強制執行まで行けば、それはそれで費用がかさむというジレンマもあります。
強制執行手続き自体の費用に加え、動産(荷物など)の保管やその処分にも費用がかかるからです。
但し、強制執行にかかった費用は債務者へ請求できます。
このようなことを鑑みて、立ち退き料を支払ってくれる買受人も皆無ではありません。
ただその場合も数万円というケースが多いようです。
いずれにしても、立ち退き料がもらえるかどうかは買受人次第といえるでしょう。
競売の場合は、誰が落札するかわからないため、基本的には引っ越し代はもらえないと想われてた方が良いでしょう。
【競売後も住み続ける事は可能か?】
以前は「短期賃貸借制度」を悪用することにより、納得のいく高額な立ち退き料を買受人が支払うまで、占有を続け居座るといったケースがありました。
物件が競売されても、そこを短期賃貸借契約で借りている賃借人は善意の第三者であるため、法律で保護されていたからです。
しかし平成16年4月1日に施行された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、「短期賃貸借制度」が廃止され、占有を続けることは実質不可能となりました。
また強制執行の手続きも、以前は訴訟を起こし、判決が出てからでないと執行できませんでしたが、これも簡素化され落札から最短で2ヶ月かからず強制執行が可能となりました。
そのため不法に占有して居座るということは不可能ですが、住み続ける事は全く可能性がないわけではありません。
所有権は買受人に移りますが、その買受人と賃貸借契約を結ぶことで、賃貸として住み続ける事はできます。
ですが競売に参加する業者や個人は、ほとんどの場合、投資目的(リフォーム後転売)か自分で住むなどの目的ですので、賃貸契約を結んで住み続けられる可能性はかなり低いと言えるでしょう。
また、競売後の賃貸契約を約束して、知人や親戚などに落札してもらう事も可能ですが、競売ですので必ず落札できるわけではなく、こちらも難しいと言えます。
以上のように、任意売却をせずに競売で落札されてしまった場合、ほとんどの方が自己負担で出て行かざるを得ません。
自宅や所有物件が競売にかけられてしまった場合、やはり早めに任意売却を決断されることをお勧めいたします。
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